そうは思っても夏樹さんに電話する勇気はなくて。結局みちるさんの番号にかけることにした。
しばらくコールしても出ない。忙しいかなと諦めて切ろうとすると、電話の向こうから慌てたように「もしもし?」と男の人の声が聴こえた。それは夏樹さんの声だった。

驚きのあまり「ひえっ!」と変な声が出て、慌てて口を手で塞いだ。

「白沢さんだよね?ごめんね。姉ちゃんケータイ置いて飲みに行っちゃったんだ。何か用事だった?」

夏樹さんは驚かせてごめんねと謝りながら、変わらない優しい口調で話してくれた。

「あの、大した用事ではないので・・・。私も飲みたいなって思ってお誘いの電話だったんですけど、また今度にします」

用件だけ伝え電話を切ろうとすると「ちょっと待って。それって俺でもいい?」とさっきまでより優しい声。その声に涙が出た。
なんでこんなに嬉しいんだろう・・・。本当は夏樹さんに会いたかった。声が聴けるだけで幸せだと思った。それなのにどうしてこんなに欲張りなんだろう。

「白沢さん?」

夏樹さんの声に返事をしていないことを思い出す。

「ごめんなさい。いいんですか?」

「もちろんだよ」

優しく笑うその声に「ありがとうございます」と小さく言った。
これから帰ることを伝えると、19時に迎えに来てくれることになった。

「着いたら連絡するから、外に出てなくていいからね。あ、俺の番号・・・」

夏樹さんはしまったと言うかのように言葉を止める。みちるさんが登録してくれていたことを伝えると「いつの間に」と呟いていた。