「逃げようと、していた。」

抑揚が殆ど感じられない、しかし透きとおった声でそう一言呟いた。
男の腿からズルリと引き抜いた足から、赤い液体が滴り落ちる。

それまで、下卑た笑みを浮かべていたチンピラ共が、一気に苛立ちを隠せぬ表情へと変化する。


「何逃げようとしてんだ、テメェ!この薄情野郎が。」

「うわぁー、酷ぇ顔。死んだ?ソイツ。」

「と、とりあえず、カワチーと交代できるまで俺らでボコっとくな。さっさ変われよー。」

「いや、まだ入れたばっかだっつーの♪」

「ぎゃは、コイツ死亡決定だな。」



男は血に染まったずた袋のような体裁となり、気絶したのか声すら出ていない。

女は、涙と鼻汁を流しながらチンピラ達の玩具と化した。




ダストボックスに腰かけた異形の女が去ったことに、だれ一人気付くことはなかった。