知らなかった。
裕くんの心。
本当の、裕くんのことを。
「李那がそんなこと思ってるなんて知らなかったよ。ごめんな。じゃあ別れるわ。」
…ごめん、裕くん。
「お前をそこまで追い詰めてるなんて知らなかった。
…まあ、そらそうだよな。健常者だもんな、俺。お前にとってはうざくてしょうがねぇよな。」
…違う、そんなこと思ってない。
裕くんに対してそんなこと思ったことない。
いつだって裕くんは私の光だった。
病気がわかった時もそばにいてくれた。
…いつだって助けてくれた。
「…なら、望み通り、別れよう。」
ごめんなさい。
酷い言葉ばかり言って傷つけて。
知ってるんだよ?
裕くんは傷つくと怒ること。
怒って傷ついてることを隠すんだ。
普段怒らないのは傷つくようなことを言われないから。
だって私裕くんの幼馴染であり彼女だったから…
裕くんの癖もう全部知ってるんだよ?
ごめんなさい…裕くん…
【如月李那side END】

【中矢裕side】
全て分かってた。
李那は俺を悲しませないように手放すこと。
幼馴染なめんなよ。
何も別れなくても相談で良かったじゃねぇか…
今更のように感じる後悔。
あのまま怒りに任せて李那の病室から出てきた俺だけど、冷静になればなるほど、李那がやったことは全て俺のためを思ってやってくれたこと。
あいつの、優しさ。
「ー裕さん!」
「…?」
「蒼空です!」
更科か…
「なんだ?」
「本気なんですか?!」
本気?
いつだって俺は本気だ。
李那のことも。
友情も。
部活も。
全てにおいて俺は全力でぶつかってきていたんだ。
「李那が本音であんなこと言うなんて本当に思ってるんですか?!」
…本気であんなこと言う李那なんて想像つかねぇよ。
李那は本気であんな顔したりしない。
あれは俺が自分を嫌いにならせるためについた李那の嘘だ。
「もし本気だと思ってるなら…」
「思ってるわけねーだろ?!」
いつだって李那は優しかった。
その李那の思いを、俺は蹴った。
「思ってなくてもさ!あいつが俺を必要としてない限り付き合っていくなんて無理だろ?!」
俺は完全に壊れていた。
李那と別れるなんて今まで考えられなかったから。
「…李那のこと、ほんとに分かってるんですか?」
「…は?」
「李那を分かってるなら今の李那のことだって想像できるはずだ。」
今の、李那?
「今の李那は俺に言った自分の言葉に後悔しているはずだ。」
あの優しい彼女の事だ。
自分の言った言葉に自分で傷ついているんだろう。
俺の答えに満足したのか、更科は俺に微笑んだ。
「…正解です。
李那は今、自分のことが嫌いになりかけています。」