最初に気がついたのは、水穂の友人で交通課の岩谷由利だった。



「このごろ、なーんか違うのよねぇ」


「なにが違うって?」


「水穂、変わったと思わない? 見てよあの顔、なんて言うか、雰囲気が違うのよね。

憂いに満ちた顔っていうか、ときどきとんでもなく色っぽい表情をするじゃない」


「どこが? あのチャキチャキ娘のどこが変わったってのよ、いつもと同じじゃないの」



同じく交通課で友人の内野淳子に、どこがと言われても、上手く説明はできないものの、ユリは籐矢と水穂の間に流れる空気が微妙に変わったと感じ取っていた。

二人の掛け合いはいつも通りだし、とりたてて水穂の服装がエレガントになったわけでもない。

籐矢にしても煙草を立て続けに吸い、それをしつこく水穂に注意されるのも同じだ。

だが何かが違う……

答えを見つけるべく、ユリは籐矢と水穂を注意深く観察した。



「岩谷君、この前の似顔絵はとても参考になった。感謝していると篠原課長に伝えておいてくれ」


「はい、お役に立てて部下として私も嬉しいです。課長の絵の腕前は美大卒並みですから」


「本当に助かった。思ったより大物でね、別件で容疑者にあがったことのある人物だった。 

まさか、こっちの事件と関係があるとはねぇ」


「室長がとっても感謝していたと、課長に伝えておきますね。

あのぉ、今夜、私たちも参加しても良かったんですか? なんだか申し訳なくて」


「君たちは篠原課長の代理だ、気にするな。もっとも、篠原課長の怖い顔より、君ら二人の方が嬉しい」


「あはっ、室長ったら、本音を言っちゃダメですよぉ」



途中から会話に参加してきたジュンが、愛想よく東郷室長の空いたグラスにビールを注ぐ。



「ジュン、室長にあんまり飲ませないでね。この前の健康診断でアルコールは控えめにって、言われてるんだから」


「あら水穂ったら、世話女房みたいなこと言うのね。心配する相手が違うんじゃないのぉ~」



ユリはすかさず水穂へ茶々を入れた。



「やだ、誰のこと言ってるのよ。心配する相手だなんて……」



水穂は明らかに動揺している。

これはやっぱり……

ユリはチラリと籐矢を盗み見た。

水穂の慌てぶりを可笑しそうに、そして、優しい眼差しで見つめているではないか。

仏頂面の水穂へ 「そう固いことを言うな」 と言うのはいつもと同じだが、水穂の肩に置いた籐矢の手がやけに親密だ。

話しながら相手の体に触れるのは、親しい間柄ならではの仕草である。

ははぁん……この二人、進展があったわね……

ユリは、ジュンとの賭けの勝利を確信した。