5年の月日はあらゆるものを変えていく。

テロ事件発生から3年ほどは頻繁に報道されていたが、今では記事の扱いも小さくなり、事件そのものが世間から忘れ去られようとしていた。


『事件から5年、いまだ真相は闇のままである。寄せられる情報も少なくなり……』


新聞の広告欄に掲載された週刊誌の見出しは、5年前のテロ事件を取り上げていたが、同時に警察の捜査能力を問う文字も躍っていた。



「勝手なことばかり書いてやがる……」



そう言い捨てると、籐矢は広告記事の部分を引きちぎった。

手に握りこんだ新聞紙をダストボックスへと投げ入れる籐矢の背中に、静かな声がかけられた。



「籐矢さん、そろそろお着替えになりませんと……グレーのスーツを用意しておきました」


「あっ、うん……ひろさんも行ってくれるんだろう? 一緒に行こうか」




家政婦の三谷弘乃は 「はい」 とだけ返事をして、籐矢の着替えが済むのを待った。

去年は帰国の時期をずらしたのか命日には顔を出さず、一人で麻衣子の墓参りをしたようだと籐矢の継母から聞いた。



「今年は五年祭だから出ないわけにはいかないよ。征矢にも絶対に顔を見せろと念を押された。 

親族の手前、親父達の顔もあるよな。それに5年は節目だから……」

 

神事とは言え、気の重い身内の集まりに行く理由を、無理に並べる籐矢の声が聞こえてくる。

弘乃には、籐矢が父親と顔を合わせたくない理由もわかっていた。

互いに相手を気遣いながら不器用な父と息子は、それぞれの思いを抱え本心を口にしない。

今日も気が進まないのだろうが、故人のために重い足を実家に向ける籐矢が不憫でもあった。