捜査官達を前に、ソニアがこれまでに収集した情報を解説していく。

傍らには常に籐矢がおり、彼女をサポートしている。

私情をはさんだ関係には見えないが、籐矢のかつての同棲相手はソニアではないか……

ということに拘っている水穂には、どうしても二人を冷静に見ることが出来ない。

車の乗り降りには手を貸し、人ごみを歩くときもソニアを気遣う籐矢は、水穂には見向きもせず、ソニアにだけレディーファーストを徹底している。

「女はココにもいるのよ!」 と叫びたいのを我慢して、水穂は二人の様子をじっと見守ってきた。

これまで文句を言い軽口を叩きながらも、籐矢と信頼関係を築いてきた。
 
それがソニアがきてからというもの、二人の間にソニアが割って入ったようで、水穂は落ち着かない日を過ごしている。



「いくら元同僚だからって、今のパートナーである私をないがしろにしないでよ」



誰に言うともなしに、ブツブツと独り言が出る水穂は今日も不機嫌で、顔をしかめて眉間には皺がより、口元はへの字に結ばれている。

ソニアは明日には帰国する、これで普段の自分達のペースに戻れるだろう。

そう思いながらも、心の底でソニアの帰国を心待ちにしている自分も嫌だった。

籐矢とソニアは、水穂の前でベタベタといちゃつくわけではないが、そばにいるだけで彼らだけに通ずる空気が流れている。

最終の打ち合わせが行われる中、水穂は一段と無愛想な顔で会議に出席していた。



「都内に奴らの潜伏先があると情報があった。

ただ情報は去年のもので、今でもそこが使われているかは不明だ。

確認の必要がある。神崎君、香坂君、頼む」



籐矢が頷き、水穂と顔を見合わせ無言で意思を確認しあう。

やっといつものペースに戻れると水穂は単純に喜び、仕事に情熱が戻る思いだった。



「これでミーティングは終わる。べアール捜査官は明日帰国する。

ささやかだが慰労会を行う。今夜時間のある者は参加するように。以上だ」



来週の捜査へ向け意気込んでいた水穂は、慰労会と聞き眉を寄せた。

慰労会など必要ない、籐矢とソニアが二人で別れを惜しむ時間を邪魔しなくてもよいのに……

と、心にもないことを思ったが、室長のお声掛かりでは断るわけにもいかず、しぶしぶ参加を承知した。





誰が予約したのか、いつもの飲み会の会場とはずい分雰囲気が違っていた。

洒落た店内は明かりが落とされ、大胆に生けられた花木にダウンライトが注がれて、壁際にはアンティーク調のアップライトピアノが一台置かれている。

この店は生演奏も売りで、専属のピアニストが耳障りの良い曲を弾くのだという。



「水穂、ご機嫌斜めじゃないの。ふふん、私の言ったとおりになったわね」


「どうしたの、その格好……なんでここにアンタ達がいるのよ」



水穂が声の方向を振り向くと、ジュンとユリがニヤニヤしながら立っていた。

ジュンは綺麗な足を強調するように、深くスリットの入ったワンピース姿、ユリは色白の胸元が大きく開いたスクエアカットのカットソーに、ローライズジーンズ。



「うふん、これから合コン」


「合コンって、二人とも結婚してるのよ。主婦が夜遊び?」


「結婚しているからどうしたって言うのよ。恋人がいようがダンナがいようが、人生楽しまなくちゃ。

アンタもうだうだしてると、肝心なものを逃すわよ」



整った顔とは裏腹に口から出る言葉に遠慮はなく、ジュンは相変わらずの言いたい放題で、いつもなら柔らかい笑みで見守るユリも、今夜はやけに冷たい態度だ。



「ジュン、今の水穂には何を言っても無駄よ。このコ、彼が自分を見てくれないから不機嫌なだけ。

努力もせずに自分を振り向いて欲しいなんて勝手なのよ。水穂なんてほうっておいて、さっさと行こう」


「ちょっと二人とも、待ちなさいよ。私が何をしたって言うのよ。ねぇ、なんで努力が必要なわけ?」


「まったくもぉ……そんなこともわからないの? わからなきゃ自分の胸に手を当てて、よーく考えなさい。

それでもわからないなら、アンタは相当なおバカよ」



二人は言いたいことだけ言うと 「私達の席はあっちだから、じゃぁね」 と不可解な顔の水穂を残して立ち去った。



「なんなのよ。もぉ、わけのわからないことばっかり言ってくれちゃって」 



水穂はブツブツ言いながらジュンとユリの背中を睨みつけていると、 彼女らは途中で会った籐矢をつかまえてなにやら文句を言いはじめた。

普段は無愛想で他の女性職員と話もしない籐矢だが、ジュンとユリの剣幕に恐れ入った様子である。

あの神崎さんをやり込めるなんて、まったく怖いもの知らずの二人だこと、と水穂は威勢のいいジュンとユリに呆れながら仲間のいる席についた。