「圭佑、神崎警視を知ってるの? 今日、圭佑の姉さんっかって聞かれたの」


「神崎教官、帰国されたんだ!」 



帰宅後、弟に警視を知っているかと尋ねると意外な答えが返ってきた。

神崎警視は、圭佑の警察学校時代の指導教官だった。

第一線の警察官が、なぜ警察学校に配属されていたのか、思ったままの疑問をぶつけると……



「教官、自分のせいで近しい人を亡くしたらしい」


「神崎警視の過失なの?」


「詳しい事はわからないけど、その事件のあと現場を離れて、僕らの教官になったって聞いた……」



その後、警視庁に戻らずICPOに出向したのだと、圭佑の口は質問以上のことを話した。

「そうか、姉さんと同じ部署か、近いうちに挨拶に行くよ」 と圭佑は懐かしそうな顔になり、警察学校時代の神崎の話を続けたが、水穂はその半分も聞いてはいなかった。

神崎警視の過去に興味を持ったわけではないが、なんらかの事情で事件が起こり、神崎が責任を感じて現場を離れたのではないかと聞き、水穂の中の神崎に対する悪い印象が少し薄らいだ。


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* ICPO・・・国際刑事警察機構

  国際的犯罪事件の防止などのために設けられた国際組織であり、情報による捜査が主で、強制捜査権や逮捕権などはない。