今だからなぜあのように俺に振舞ってくれたのか、心痛いほどよく分かる。

 特に大人になって、自分が小学校の教師になった今、子供達一人一人の顔を見れば、あの時の俺と同じようなのがいる。

 彼らはやはり助けて欲しいと、言葉なく訴えてくる。

 それがよく見えるからこそ、今度は俺が子供達を喜ばせるマジシャンになって、魔法を使うように救ってやりたい。

 少しでもいい方向に向かうようにと、その道を一緒になって見つけてやりたい。


 そんな思いが湧き出てくる。


 俺が教師の道に進んだのは、そういう事情も入っているのだが、でも一番の理由は、

『将来先生になるよ』

と、あの子に言われたからだった。


 マジシャンに憧れて、俺に手品を見せてくれたあの子。

 それがまた下手くそで、常に失敗ばかりしていた。

 それでもいつも笑顔で、俺に手品を見せてくれた。

 いつもどこか抜けていてボロがでたけど、最後に一つだけ奇跡的なマジックを俺に見せてくれた。


 だから俺は心から、今、笑うことができる。


 俺はこの瞬間心の中が満たされて、とてもハッピーな気持ちだったのかもしれない。

 そして俺は、この時『サボテンの鉢植え』をしっかりと腕に抱えていた。