少し時間を置いてから教室に向かおうとしたそのとき、洸がこちらを振り向いた。


突然のことに、体が動かず、なんともマヌケなポーズで私は固まる。


「あっえっと…」


「葵…」


洸の非難の眼差しに、私は引きつる頬をなんと持ち上げる。


「ごめん、悪気はなかったの、本当に」


私は洸のいるところまで走る。


洸は、私が隣まで来るのを確認してから、歩き始めた。


「みんなの洸先輩だとしてもやっぱり告白する人はいるのか…」


高野さんたちに干されないかが心配だ。


「ちゃかすな」


頭に拳がこん、と置かれる。


昨日の後輩ちゃんも言ってたけど、確かにここまでモテる洸が彼女の1人もいたことがないのはおかしい。


「…洸ってもしかしてゲ」


「なんか言った?」


ぐりぐりと頭皮が刺激される。


「痛い痛い!冗談!」


私は降参を示して洸の手から逃れる。


「…洸はさ、東京に行くの決めたから彼女作らないの?」


「…さあ、どうだろうな」


「あーはぐらかした!」


洸は笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。