穂香先生は、わたしがちしま学園に入所した時から小学三年生の途中まで、室担(しつたん)だった女の先生で、高橋先生の奥さん。

いつも優しくてわたしをとってもかわいがってくれた、大好きな先生。

赤ちゃんが二人生まれて、しばらくの間お休みしていたけれど、今日やっと戻ってきてくれた。



「穂香先生~! おかえりなさい。ずっと待ってたの!」


懐かしい穂香先生を玄関で見つけて、わたしは飛びついた。


「ちーちゃん、ただいま! また一緒の部屋になったね」

「うん、もう『藤島部屋』じゃなくて『高橋部屋』になっちゃったけど」

「ふふふ。横綱が誕生する縁起のいい部屋って言われてたのになあ。ちょっとそこが残念」

「高橋先生は元気?」

「うん。大学院で毎日勉強しているよ。若い子に混ざって学食でおいしいものを食べるのが楽しみなんだって」

「そうそう、穂香先生、わたし、ピーマンとトマト、ちゃんと食べられるようになったんだよ!」

「ホント!! えらいわ~。ちーちゃん、頑張ったんだね!」


玄関から職員室までのほんの短い距離だったけれど、穂香先生を独り占めして話せたことで、悪夢から始まった嫌な朝をリセットできた。