穂香は直視することをある意味避けていた、自分の日常を振り返ってみた。


ーー今の私って、幸せなのかな。

大学まで行かせてくれた親には感謝している。

でも、仕事は正直本当にキツい。

荒れた中高生から『うぜぇ、死ね、キモイ』なんて罵倒されて、時々殴られて蹴られて。

いや、彼らも親からこんな扱いを受けて生きてきたからだって解ってはいるけど、やっぱりしんどい。

当直ありの不規則な生活で、彼氏なんて作る暇もないし……



千花に幻滅されるかも知れないと思いつつ、穂香は正直に話した。

「うーん、幸せのお手本って言われたら、正直なところ微妙かな。でも、幸せになるための努力はしてるよ。だから、ちーちゃんも一緒に頑張ろう」

「……ぐすっ。ちーちゃん、がんばっていいこになる……。せんせいもがんばろうね」


穂香は思わず小さな体を泣きながら抱きしめた。

顔を見られないから泣いていることに気付かれないはずだと思い、溢れる涙はそのままにして、小さな背中をさすった。

穂香は背中に回された棒切れのような細い腕の儚さを感じて、幸せの種がしっかりと根付くよう、全力でフォローしようと誓った。