交代を知らせる遠慮がちなノックの音に穂香が気付いた時、既に周囲はうっすらと明るくなっていた。
夢を見ることもなく、ぐっすり眠ってしまったようだ。
(もう四時! 交代の時間、とっくに過ぎてる!)
慌てて起きた穂香は「今出ます」とドアの方へ声をかけ、シーツと枕カバーを素早く交換して仮眠室を出た。
職員室へ入ると、先ほどと変わらない穏やかな表情で陽平が待っていた。
「できました。念のため、筆跡がわかりにくいフェルトペンを使っています」
四つ折りにされた上質紙の表面に書かれていたのは、力強くて勢いのある、いかにも男性らしい『ちかさんへ』の文字。
「読ませてもらってもいいですか?」
「もちろん。読み終わったらちーちゃんの枕元に置いてください。じゃあ、私は仮眠させてもらいますね」
「ありがとうございました!」
陽平が職員室を出て行ってすぐ、穂香は手紙を開いた。



