「それでは早速、返事を書きます。内容は私に任せてもらいますね。その間に藤島さんは仮眠をとってください」
「すみません……」
「出来上がったら起こしますから、交代してください」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、おやすみなさい」
「おやすみなさい。よい夢を」
よい夢を。
独身の男女が交わす就寝の挨拶としては、少し常識と外れているかも知れないが、三十代の陽平が二十代の穂香にまでこう挨拶してくれるのは、おそらく癖、だろう。
ちしま学園の先生達は、子ども達とおやすみの挨拶をするときに、必ずこう言う。
穂香も「いい夢見てね」と、小さな子ども達をきゅっと抱っこしてから消灯するようにしている。
せめて就寝中は、幸せな気もちでいて欲しいから。
夜中に辛いことを思い出さないように。
トラウマに引きずられないように。
布団を一組敷いたらいっぱいになってしまう狭い仮眠室で、穂香は目を瞑った。
(高橋さん、どんなお返事を書くのかな……少なくとも私が書くよりはいい内容だと思うし、きっと大丈夫)
そう自分に言い聞かせて、穂香はゆっくりと呼吸した。



