千花を待っている間、母親は園長先生と面談していた。

産後は実家に住み、母や妹と一緒に千花と赤ちゃんを育てるとのことだった。


元々、折り合いのよくない実家での生活は、長続きしないだろう――。

園長先生もそこが心配らしく、このような言葉がけをしているのが、廊下を歩いていた陽平の耳にも届いた。


「まずはお母さん、自分の心と体を大切にしてください。赤ちゃんと千花ちゃんは、いざとなれば行政の支援も受けられますから」

「はい」

「お母さんの笑顔が、子ども達の幸せに繋がります。どうしても子どもに笑顔を向けられなくなった時は、遠慮なく助けを求めてください」

「いいんですか?」

「それが私達の役目です。共倒れする前に、必ず連絡してください」

「わかりました」



園長先生も、陽平と同じ考えだった。

園長先生は母親に、自分は千花に連絡先を渡し、いつでも受け入れられるということを伝えた。


ソファの上で母親に甘える千花を見て、陽平は素直に喜べない自分を哀れに思った。


――この子は、きっとまたここへ戻ってくる。

この予想が外れることを願いながら、陽平は千花を見送った。