幸せの種


園長先生は、意外だというように眼を見開いて、それからこう答えてくれた。


「琉輝が受験勉強に専念できるように、という配慮だよ」

「本当ですか?」

「そう。嘘はついていないよ。一番の理由はそれ。琉輝の目指す道はなかなか険しいから、少しでも環境を整えてあげたくてね」


一番の理由、というところが引っかかった。

だったら他にも理由があるということではないのだろうか、と。


「それじゃあ、二番目の理由は何ですか?」


わたしがあまりにも必死に食い下がったせいだろうか、園長先生が『静かに』というジェスチャーをした。

そうだった。廊下から、ミーナちゃんがわたしを探す声が聞こえてくる。

まさか園長室までは探しに来ないだろうと思うけれど、ここで見つかると面倒なことになるのは明らかだった。

わたしは園長先生のジェスチャーにうなずいて、言葉を待った。


「……何から話そうか。いや、話してはいけないんだった。個人情報だ。だからここから先は、園長先生のひとりごとだよ。今、ここには誰もいないから」


茶目っ気たっぷりに笑い、園長先生はネクタイをゆるめてリラックスしはじめた。

まるで、わたしなどここにはいない、というように振る舞っている。