幸せの種


ミーナちゃんが話の中心になって、一瞬わたしのことを忘れた瞬間、その場から逃げ出した。

もう、一瞬たりともそんな話は聞きたくなかった。


「千花、逃げんのかよ!」


後ろからミーナちゃんの怒鳴り声が聞こえたけれど、わたしは振り返らずに走った。

穂香先生を探して職員室へ行ったけれど、そこにはいなかった。

他の先生たちがわたしの勢いに驚いて振り返ったけれど、そんなことは構っていられない。

後ろにはもう、ミーナちゃん達が迫ってきている。


怖くて、不安で、どうしようもなくて。

わたしは職員室の奥のドアから、園長室へ駆け込んだ。


何も言わずに飛び込んで、ドアを閉める。

園長先生は一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐに穏やかな表情で聞いてくれた。


「千花、何かあったのかい? とりあえず、座ろうか」

ソファを指差し、座るように勧めてから、園長先生も向かいのソファに座った。


「喉が渇いているだろう? みんなには内緒だよ」


窓側に置いてある、缶ジュースをひとつくれた。

わたしは息を整え、ジュースを一口飲んでから、園長先生に聞いた。


「琉君はどうして、さくらハウスへ移ったんですか?」