幸せの種



ミーナちゃんが私の方へ近寄ってきた。

逃げたらさらにひどいことをされるのは目に見えている。

観念してわたしはその場にとどまった。

にやりと笑ったミーナちゃんが、信じられないことを口にした。


「うち、琉と付き合ってたから。琉の子を妊娠して、堕ろしたの」

「……嘘」


そんなことは信じない。絶対に違う。

だって私は、琉君とおでこをこつんとぶつけ合うだけで、あんなに緊張して、ドキドキして、いけないことをしているような気もちになるのに。

きっとそれは、琉君も同じはず。

ミーナちゃんの作り話であることは、疑いようがない。


「ホントだって。だからうちがここに戻ってくるの遅かったっしょ。堕ろす手術したあと入院したし、それに琉だってここからいなくなったのは、うちが帰ってくる前に引き離そうとしたからだよ」


わたしは信じていなかったけれど、周りの子はみんなそれを信じようとしている。


「……確かに」

「琉君、いきなりいなくなったもんね」

「そうでしょ。あれ、うちと琉がまたやっちゃうと思って、園長が琉をあっちにやったの」


このままミーナちゃんが嘘をついていたら、琉君がひどい人になってしまう!

琉君の名誉が傷つけられるのを黙って見ている訳にもいかない。

だけど、本当の理由を言ってしまう訳にはいかない。