幸せの種



それから十日後、琉君はちしま学園からさくらハウスへ引っ越してしまった。

夕食の時間、食堂で簡単なお別れ会が開かれた。

こういう日は、夕食のメニューがいつもより少しだけ豪華になる。

琉君の好きなザンギがあり、ちゃんとリクエストに応えてくれた調理員さんに感謝した。


琉君からみんなに、お別れのメッセージが伝えられる。


「えっと……俺、ここに来てからもう、九年になりました。両親はここにいないから、多分高校卒業までずっとここで暮らすんだなと思ってたけど……」


そこまで話して、琉君が周囲を見回している。

目線の先には、高橋先生がいた。


「先生方が話し合った結果、俺がちゃんと勉強に集中できる環境に行ったほうがいいだろうっていうことで、さくらハウスへ行くことになりました。俺はここで頑張って勉強して……」


今度は、私の方を見た。力のこもった目線に、どきんとする。


「医者……小児科の先生になろうと思います」


そこまで言い切った琉君に対し、真っ先に拍手を送ったのは園長先生だった。