幸せの種



まもなく夕食、という時間だから、学習室には他に誰もいなかった。

少しだけ安心して、だけど用心しながら琉君と話す。


「だって、わたしが一緒にいたら、気が散るよね。それに、穂香先生も言われたし……」


あの夜、穂香先生にバレてしまったことを、琉君にはこっそり伝えていた。

あんこの入ったパン型ヒーローのお店で、キャラクターとの写真撮影で列に並ぶ高橋先生一家と別行動した隙に。

だからいずれ、わたし達の行動が制限されるだろうという予想はしていた。

園長先生から釘を刺されるか、わたしが家に戻されるか、それしか予想していなかったけれど。

だから、さくらハウスに琉君が行ってしまうというのは、わたし達にとって予想外だった。


「誰に言われても、俺は変わらない。だから、千花も変わらないでいて欲しい」

「約束する。私は変わらないし、琉君を信じてる」

「さくらハウスで毎日勉強する。あっちにも学ボラさんが来てくれるそうだし、個室になるから勉強しやすい」

「そっか。個室、うらやましいな……」


わたし達は基本的に四人部屋で生活している。

高校生になると二人部屋が割り当てられるけれど、個室を使っているのは、ここではミーナちゃんだけだった。