幸せの種



琉君が園長室へ呼ばれてから、もう一時間以上経った。

もうすぐ、夕食の時間になってしまう。

勉強道具をそのまま置いて行ってしまったから、話し合いが終わったらきっとここに戻って来るはず。

黙っていると、どうしても悪いことしか考えられなくなってしまうので、わたしはそのまま、作文のネタを考えることにした。


わたしの通う中学校では、毎年一年生に『人権作文』を書く課題が出される。

学校で『基本的人権の尊重』というのを習ったけれど、わたしにはピンとこない。


全ての人が平和に暮らす権利。

健康で文化的な最低限度の生活を送る権利。


……わたしはここに来る前、それが全くなかった。

毎日おじいちゃんとおばあちゃん、それにみさちゃんから怒鳴られて体罰を受けて、ごはんもちゃんともらえない、お風呂もなかなか入らせてもらえないっていう、平和とは程遠い暮らしを続けていた。

そんなわたしに『人権作文』を書けっていうのは、あまりにも残酷な課題ではないだろうか。


……残酷な課題?

そっか。これだ。これなら私にも書ける。

わたしは不安な気もちを作文にぶつけることにした。