美麗はようやく気が付いた。


あんなに忌み嫌っていた自分の母親と、今、同じことをしていると。

いや、母親よりさらに酷い。

まだ小さな娘を置いて、家を出るのだから。

いっそ、別々に暮らした方が幸せかも知れないと思うことはあったけれど、それでも常に一緒だった。


母親の心は美麗に向いていなかったし、義父の顔色を窺い、いつも後回しにはされていた。

けれども、家庭内で精神的な居場所がなくなっていたとしても、その場を共有していた。


千花もこのままだと自分の父親を知らずに成長するかも知れない。

母親からも見放されたと思うだろうか。


いつか、彼に千花の存在を打ち明けられたら。

彼が千花のことを受け入れてくれたら。

必ず迎えに行く。


母親になったとはいえ、美麗もまだ二十歳。

本気で好きになった千尋と別れ、千花が生まれ、そして彼と出会った。



千花の寝顔を見ながら、美麗は手紙を書いた。

成長した千花が自分で見つけてくれることを願って、バニティケースの底にそれを隠し、そっと家を出た。


――私は今までちっとも幸せじゃなかったけれど、これから彼と幸せになるから。

自分勝手な母親だけど、千花だけでも幸せになって欲しい、と。