幸せの種



琉君の眉間からしわが消えた。

代わりに、とびっきりの笑顔でこう言われた。


「大人になって、誰からも文句を言われないように働いてから、付き合おう。ただし、絶対に裏切らないこと」

「琉君がどれだけ偉くなっても、わたしのこと、忘れないでいてくれる?」

「もちろん。だから、俺のことも忘れないで。約束……」


目の前に琉君の顔があった。

おでことおでこをこつんとぶつけられ、ふふふっと笑われた。

小さい頃、よくそうやって甘えていたのを思い出す。


それから、目の前に小指を出された。


久しぶりのゆびきりげんまん。

琉君はうそついたら、ではなく、裏切ったら、に歌詞を変えて歌った。

指切ったと歌う、はにかんだ琉君の笑顔が眩しくて、恥ずかしくて、俯くしかできなかった。


「今の、忘れんなよ」


琉君の声もいつもより掠れていて、すごく緊張していたのが伝わってくる。

わたしはただ首を縦に振って、壊れそうなくらい激しく動く心臓のあたりを手で押さえた。


「千花が大事だから、約束を守る。千花を泣かせない」

「そんなこと言ったら、わたし、泣くよ……?」


お互いを大事にする。

そんな当たり前のことが当たり前ではなかったわたし達は、当たり前の幸せを掴むためにマイナスからスタートする。

マイナスのままでは終わらせない、という強い意志が必要だった。