「あんたじゃなくて、朔。」




「…さ、朔。」




「ん、よろしい。」




他人を名前で呼ぶことに慣れていないから、朔を呼ぶことが少し恥ずかしい。




そんな私にはお構いなしに、朔はテーブルの横の棚をゴソゴソとあさり出した。




「あ、あったあった。これ、どーぞ。」



名刺を私によこすや否や、再びカレーを頬張り始めた朔。




裏向きに渡された名刺をひっくり返すと…






“岩塚ホールディングス 代表取締役社長 岩塚朔”





「い、岩塚ホールディングスって…」




めちゃくちゃ有名な会社じゃん!




「朔、社長なの…?」




若手の社長だってニュースで取り上げられてたけど、まさかそれが朔とは。



「大したことしてないし。ま、でも奏が身体売らなくても済むくらいの経済力はあるよ。」



そう言ってにっこり微笑む。




「…誰がずっとここにいるって約束したのよ。私、次に住む先が決まったら出て…」


「許さない」




その低い声に、目が合う。






放っておいて欲しいのに、放っておいてくれないこの男。