「待って!」

思わず少女を引き止める。
自分に興味を持たない少女にイラつきにも似た感情を抱いた。


「私は舞音。ここよりもっと北の街から来た。」

舞音はここに来た経緯を話した。
意外にもちゃんと耳を傾けてくれた少女はセイカと名乗った。

「いいよ、この街のこと教えてあげる。」

「本当に?」

「うん。だけどまだこの時間は人が少ないの。日が傾くまでうちにおいで。」

無言で数歩前を歩くセイカを後ろから観察した。
一切の素性を話さないセイカを信用して良いのか分からないが今の舞音には彼女に頼る他がない。



「あなたもパフォーマー?」

セイカの家は酒場のような場所だった。
まだ開店前で店内はカウンターに座る舞音とカウンターの中で何やら仕込みをするセイカしかいない。

「ええ。」

多くを語ろうとしない彼女とは長く会話は続かなかった。

「今晩。」

「え?」

「今晩、イベントがある。知りたければ見にこればいい。」

そう言ったきりまた後ろを向いてしまったセイカに分かったと告げる。
今まで舞音の周りにはいなかったタイプの人間だ。
舞音のいた街の人はもっと温かい。
得体の知れない街の雰囲気と体温を感じない人を不気味だと思った。


日もようやく沈みかけた頃舞音はセイカに連れられて小さな小屋にやって来た。
中には小さなステージがあり脇にはちゃんとスピーカーが組まれている。
心もとない客電は照明設備がちゃんと使えるのか少し不安にさせた。
中には既に20人ほどの人がいてそれが出演者なのか観客なのかは分からない。
セイカはどんどん奥へと進んでいく。
すると一人の男に声をかけられた。