額を流れる汗に髪の毛が張り付き、目を開けなくてもわかるような強烈な光は南の窓から既に高い位置で見下ろす太陽だ。
窓の隙間から入る街の喧騒は舞音(まお)の寝ぼけた脳を掻き回した。


フォーーーー‼︎

昼一番の機関車の音がなる。
駅の真裏にあるこの部屋にそれはよく響く。お陰でボンヤリとしていた舞音の意識は現実に引き戻された。

「私は夢をっ!……。」

寝ぼけて叫んだ自分の声に思わず驚く。
夢か、と呟くと舞音は一気に脱力感に襲われた。
ずっと昔から抱き続けるHALL 銀河鉄道でショーがしたいという夢。
そこで成功させれば自分が何者かになれる気がした。
どんな歌をやってもどんな踊りをしても舞音より秀でた才能を持つものは沢山いて舞音はそれが悔しかった。
しかし、それでも諦めないのには理由がある。
ベットから起きだして机の上の小さな箱に手を伸ばす。
中に入っているのは一枚の写真と家族からの手紙。落ち込んだ時はいつもこれに元気をもらう。

「落ち込んでる暇なんてないよね!よっしゃ、やるか!」

舞音はヘッドホンを首から下げ部屋の外へ踏み出した。


昼間の一番暑い時間、街を行き交う人は少ない。
皆建物の中にいるのだろう。
ヘッドホンから音を響かせながら舞音は駅の横を抜けていく。
そのまま細い路地をいくつか進むと不意に足を止めた。
目の前にあるのはつい先ほどにも夢に見た大きなホール。

“HALL 銀河鉄道”

大きな看板を見上げながら胸が高鳴るのを感じた。
不意に肩を叩かれて振り返ると銀河鉄道の近くにある喫茶店の制服を着た女の人が立っていた。
キョトンとしてヘッドホンを外す舞音にその女性は優しく笑いかける。

「よくここに来てホールを見上げてるよね。」