何も知らない牧村さんは、ホールの中央に進み、さらに一面に広がるガラス張りに近づくと、上から下を眺めるように見廻した。
『ここからの景色は何度見ても、凄く気持ちがいい…ほら、森野さんも見てごらん』
『いえ、私は、ホントに結構です』
『ん?…どうかした?』
『…高いとこ、ちょっと苦手なので…』
『え?本当に?…それは、もったいないな』
そういうと、少し目を細め、何かを考えるそぶりをしてから、ホールの入り口に立つ私の元にやってくると、何故か徐に後ろに立った。
『な、何ですか?』
『せっかくの景色だから、一緒に見よう』
不意に、牧村さんの右手が私の右肩に触れる。
『!!』
『大丈夫…俺が支えるから、怖くないよ』
耳元でそう囁かれ、身体中にゾワリとした悪寒が走る。
抵抗する間もなく右肩を抱かれたまま、存外強い力で窓際まで誘導される。
『あの、牧村さん、ちょっと…』
『ここはね、本当は昼間より夜景の方が綺麗なんだ』
無意識にガラス越しに眼下を見下ろしてしまい、その高さに慄き、思わず強く目をつぶってしまう。
『森野さん?…』
逃げようにも、足がすくんで動けない。
こんな時、ゲームの中だったら、颯爽と琉星が現れて、助け出してくれるのに。
リアルな世界に、琉星は存在しない。
”誰か…助けて…”
心の中で叫ぶ。



