「あ、うん……」
薄暗くて顔がはっきり見えない。
けれど、僕は差し出されたクマと彼女の顔を交互に見た。
不思議すぎて。
彼女はいっこうに差し出したクマを受け取らない僕の手を取り、掌の上に乗せた。
「大切なものなら、その……、冗談でも捨てていいって言っちゃダメ……だと、思います」
「僕、大切なものなんて言ったっけ」
「いえ……そう思ったから、言っただけですけど……。すみません」
「そう思ったのに、捨てようとしたんだ?」
そう言った僕に目線を合わせるためか。
彼女は僕をはじめて見上げた。
その瞬間、風が急に吹いて、資料室のカーテンが大きく揺れた。
カーテンで遮られていた光が部屋を明るくした。
僕はそのとき、初めて彼女をはっきりとみた。
そして彼女は僕に言った。
「執着してるものなら、絶対拾い上げて手離さないと思ったんです」


