【完】キミさえいれば、なにもいらない。

しつこいのかと思いきや、意外にもすんなりとあきらめてくれたみたい。


「そのかわり、また話しかけてもいい?」


「べ、べつにいいけど……」


話しかけるくらいなら。


思わずうなずいたら、一ノ瀬くんはフッと優しい笑みを浮かべた。


「よかった、ありがと。雪菜に少しずつ、俺のこと知ってもらいたいし、俺も雪菜のこと知りたいから」


私をまっすぐ見つめながらそう語る彼は、調子がいいことを言っているように見えて、一見それが本心のようにも見える。


嘘くさく感じるかというと、そうでもない。


だけど、そういうのを真に受けたらいけないってことはよくわかってるので、やっぱり私は警戒してしまう。


「よろしくな」


一ノ瀬くんはそう言うと、目を合わせたまま私の頭にポンと大きな手のひらをのせる。


いきなり手が触れたものだから思わずドキッとしてしまったけれど、こういうところはやっぱりチャラいなと思った。


「それじゃ、また明日」


「う、うん。バイバイ」