思わず振り返ったら、彼方くんの目は少し潤んでいて、声も震えている。


どうしてそんな辛そうな顔をするんだろう。


彼の本心がわからない。


だって、私のことなんて本気じゃないんでしょ?


だったらなんで……。


「ごめん、帰るっ」


私はそんな彼を振り切り、背を向けて先を急ぐ。


ひどい態度を取っている自覚は十分にあったけれど、こうすることしかできなかった。


「雪菜っ!」


後ろで呼び止めるような彼の声が響いて、一瞬足を止める私。


すると彼は、大きな声で叫ぶように言う。


「雪菜が俺のこと嫌いになったとしても、俺は雪菜のことずっと好きだからな!」


それを聞いた瞬間、目に涙がじわじわと溢れてきた。


ねぇ、どうしてそんなこと言うの。


どうしてそんなに必死になるの。


じゃあ、あの時の言葉は何だったの?


あれが彼方くんの本性なんじゃないの……?


そのまま振り返ることなく走って昇降口を出た私は、あふれる涙を手で拭いながら急いで家に帰った。


胸の奥が、張り裂けそうなほどに痛くて、苦しくてたまらなくて。


彼方くんの傷ついたような顔が、ずっとずっと頭から離れなかった。


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