【完】キミさえいれば、なにもいらない。

それからも、文化祭の打ち合わせや準備で毎日忙しい日々が続き、放課後も教室に残ってクラスメイト達と作業をすることが多くなった。


彼方くんたち一組も、毎日劇の練習ですごく忙しそう。


彼のクラスの劇は本番まで内容を一切明かさないうえに、配役も内緒という秘密主義で練習が行われているらしく、他のクラスの人が何をやるのか尋ねても、詳しいことは教えてもらえないみたいだった。


ちなみに彼方くんは今回主役に抜擢されたらしく、「自分にピッタリの役だから」とすごく張り切っているらしい。


「はぁ。昨日も夜遅くまでセリフ覚えてたから超眠い」


朝、いつものように私の席までやってきた彼が、そう言ってあくびをひとつする。


さすがの彼も、毎日の劇の練習でちょっぴりお疲れ気味みたいだ。


「お疲れ様。練習毎日大変そうだね」


ねぎらうように言葉をかけたら、彼は眉を下げながら笑った。


「あぁ。演技自体は楽しいんだけど、セリフ覚えるのが結構大変なんだよな~」


「そっか。主役はセリフが多いもんね」


「そうなんだよ。でも俺、みんなから演技褒められてちょっと嬉しかった。意外と役になりきれてるっぽいぜ」


そう話す彼方くんは、もちろん私にも何の役をやるのか、どんな劇をやるのかは絶対に教えてくれないけれど、彼の話を聞くたびすごく気になってしまう。


「そうなの?すごいね。それはますます見るのが楽しみかも」


「へへっ。俺も早く雪菜に見せたいな。雪菜が見てくれると思ったら、俺、超頑張れる」


キラキラと目を輝かせながら語る彼を見て、思わず頬が緩む。


「うん。絶対見に行くから、頑張ってね」


笑顔でそう告げたら、彼は嬉しそうに微笑んでくれた。


「ありがと」