【完】キミさえいれば、なにもいらない。

だけどそこで、ふと目の前にいる彼方くんのほうに視線を戻したら、彼の顔が私以上に曇っていることに気が付いて。


どうしたのかな……。


なんて声をかけていいかわからずにいたら、彼方くんが視線を下に向けたまま、低い声で話し始めた。


「あのさ……」


「な、なに?」


「祭りで会った時からずっと思ってたんだけど……雪菜って、あの先輩と仲いいんだな」


彼方くんの言葉に、心臓がドクンと音を立てる。


あの先輩って、陸斗先輩のことだよね?


どうしよう。確かに陸斗先輩のあんな態度を見たらそう思えるのかもしれないけれど、彼方くんにだけは誤解されたくない。


「べ、別に仲良くないよっ。陸斗先輩は、ただのお兄ちゃんの友達だし……」


私が慌てて弁解したら、彼は真顔で呟いた。


「知らなかった。家に来たりもするんだ」


そう口にした彼の表情は、なんだかすごく切なげで。思わずキュッと胸が締め付けられる。


「いや、別に、家に来るって言っても、先輩はお兄ちゃんに会いに来てるだけだよ」


「そうかな。そうは見えないけど」


「えっ?」


どういう意味……?


「俺は先輩はてっきり雪菜のこと気に入ってるのかなって思ってた。さっきだって、雪菜に会えるの楽しみにしてるとか言ってたし」


「……なっ、まさかっ!」