こんなの、黙って見てていいのかな。


いや、よくないよね。


でも、悪いのはお兄ちゃんなんだし、私には関係のないことだし、正直なところ関わりたくないよ。


「……っ。いってぇ~。なんだよいきなり」


痛そうに頬を抑えながら、起き上がろうとする一ノ瀬くんの元に男が再び詰め寄る。


「ったく、ごちゃごちゃ言いやがって、全然反省してねぇようだな」


「だから、それ……俺じゃねぇし」


「あぁ!?まだ言うのかてめぇ!」


「俺の名前は、一ノ瀬彼方だっつーの!!」


そこでようやく大声で、自分の名前を名乗った一ノ瀬くん。


だけど、男はまるで聞き耳を持たなくて。


「うるせぇてめぇ!もう一発殴られてぇのか!」


なんて言いながら再び右手を振り上げる。


その瞬間、気が付いたら私はその場に飛び出していた。


「ちょっと待ってっ!やめて!」