【完】キミさえいれば、なにもいらない。

私が慣れない下駄でさっきから歩きにくそうにしていたからか、気にしてくれたみたい。


ほんとに人のことをよく見てるなぁ。


「無理しないで、疲れたらいつでも言えよ。食べ物買ったら、どこか座れるところ探そう」


別に私が「疲れた」と言ったわけでもないのに、こうやって気を使ってくれる彼は、やっぱりとても優しい。


「あ、ありがとう」


思わずお礼を言ったら、ニコッと優しく微笑んでくれて。その瞬間、自分の胸がトクンと音を立てたのがわかった。


やだ、私、なんで彼方くんにときめいてるんだろう。


さっきから、ずっと変だ。


彼の言葉一つ一つに心が反応して、嬉しくなったり、ドキドキしたり、忙しくて。


ほんとにどうしちゃったのかな……。


「あれ、雪菜?」


するとその時、ふと前方から誰かに声をかけられた。


ハッとして顔を上げると、目の前には見覚えのある背の高い男の人の姿があって。


顔を見た瞬間、ドクンと心臓が飛び跳ねた。


え、ウソ。なんで……。


「り、陸斗先輩……」


名前を呼ぶと同時に、思わず彼方くんの手をパッと離してしまった私。


正直言って、今一番顔を合わせたくない相手だった。