【完】キミさえいれば、なにもいらない。

――ジャーッ。


体育の授業が終わったあと、いつものように外の水道で一人手を洗っていたら、急に後ろから誰かに声をかけられた。


「……ねぇ、市ノ瀬さん、だよね？」


その可愛い声にドキッとして振り向くと、そこに立っていたのはなんと、先ほど怖い顔で私を見つめてきた鈴森さんで。そこに彼方くんの姿はない。


「え？あ、はい」


なんだか急に心臓がドキドキしてくる。


どうして彼女は急に私に話しかけてきたんだろう。


私がおそるおそる答えたら、鈴森さんはムスッとした顔でこんなふうに言った。


「最近、彼方と仲いいみたいだね」


その言葉を聞いて、再び心臓が跳ねる。


同時に、彼女にまで彼方くんと仲がいいと思われていたんだと知って、ビックリした。


「えっ……」


正直、なんて答えたらいいのかわからなくて、そのまま口ごもる私に、鈴森さんは続ける。


「でもねぇ、言っとくけど、彼方は誰にも本気にならないよ。私、彼方とは小学校からの付き合いなの。だから、彼方のことは何でも知ってるんだから」