【完】キミさえいれば、なにもいらない。

そしたら彼は、焦ったように私の手をぎゅっと握ると。


「……なっ!いや、待て。雪菜、それは誤解だから……」


そんな彼の話を遮るように、私はガタンと席から立ち上がった。


「と、とにかく、そういうことだからっ!ごめんなさいっ!」


ぺこりと頭を下げてもう一度断る。


申し訳ないけど、ハッキリ言わなくちゃ。


そしたらその瞬間、一ノ瀬くんは私から手をパッと離して。


一瞬ものすごく悲しそうな顔をしたかと思うと、静かにうなずいた。


「……そっか、わかった」


そんな彼を見たら、なぜかズキンと胸に鈍い痛みが走る。


言っちゃった、私……。


一ノ瀬くんのことをはっきり振ってしまった。


でも、こうするしかないよね?


付き合うなんてやっぱりできないんだし。


そのまま彼はゆっくりイスから立ち上がると、私に背を向ける。


「ごめんな、邪魔して」


そして、一言そう告げると、とぼとぼ歩きながら図書室を出て行った。