【完】キミさえいれば、なにもいらない。

私が黙ったままそんなふうにあれこれ思いを巡らせていると、ふいに一ノ瀬くんが顔を覗き込んでくる。


「どうした?なんか今日の雪菜、元気ないね」


そう聞かれて、暗い気持ちが顔に出てしまっていたんだと思い、ハッとした。


踏み込まれるのは苦手なので、慌てて否定する。


「そ、そんなこと、ないよっ……」


「ほんとに?もしなんか悩みとかあったら俺、聞くよ」


「べつに、そんなのないからっ。大丈夫っ」


目をそらしながら、強がるような口調で答える。


そしたら一ノ瀬くんは、そんな私のことを黙ったままじーっと見つめてきたかと思うと、次の瞬間フッと優しい顔で微笑んだ。


「そっか。じゃあ俺、今日は黙って雪菜のそばにいるね」


そう言って、カウンターに乗せた私の左手に、自分の右手をそっと重ねてくる。


……えっ?


「な、なにそれ……」


「だって雪菜、なんか寂しそうな顔してる。ほっとけない」


……ほっとけない?何言ってるの。