【完】キミさえいれば、なにもいらない。

なんでそんなことを聞くのかなって思う。


陸斗先輩はもう、何も気にしていないんだ。気まずいと思ってるのは私だけなのかな。


「……うん」


「そっか、よかった。雪菜、また大人っぽくなったよな」


彼はそう言うと、片手で私の長い髪をそっとすくいあげてくる。


穏やかなそのまなざしは、あの頃と変わらない。私が彼を好きだった頃と。


そうやって変わらない態度で接してくる彼を見ると、胸が苦しくてたまらなかった。


気安く触らないでって思う。彼女がいるのに。


私のことなんてなんとも思っていないんだったら、優しくしないでよ。


「そ、そんなこと、ないよ……」


うつむきながら答える私。


ダメだ。やっぱり普通になんて話せない。


そしたらそこに、誰かが駆け寄って来て、声をかけてきた。


「陸斗ー、なにやってんの?」


顔を上げると、その人は陸斗先輩の彼女で。


何度か見かけたことはあるけれど、近くで見たらますます美人だったので、ドキッとした。


「あぁ、梓(あずさ)。ごめん、待ってた?」


「うん。でも大丈夫」


「俺も今、梓のとこ行こうと思ってたとこ」