愛してるからこそ手放す恋もある


「ここだけの話なんだが、彼は孤児でね…母親に捨てられた事が理由だと思うが、女性には凄く嫌悪感を抱いていたんだ。あれだけの外見だし、結構モテもしたらしい。そしてやっと心を許せる女性に出会った。今まで女性を拒絶していた彼奴が、結婚迄考えるようになったんだ。だが、話は上手く行かなかった」

小野田さんが孤児だと聞いて私は驚いて言葉が出なかった。

「相手は今も会社(うち)と取引のある会社のお嬢様なんだが、そのお嬢様がある日彼奴に手作り弁当だと言って差し入れに来たんだ」

お嬢様が手作り弁当…

「そりゃー彼奴は喜んだよ!恋人だからだけで無く、初めて自分だけに作られた手作り弁当だったんだ。他部署だった俺にも子供の様に見せびらかしに来たほどだ」

母親が居れば誰しも一度はお弁当は作って貰ったことは有るだろう。
でも、彼にはそんな小さなこともなかったなら、さぞ、嬉しかっただろう。ましてや、愛する人からなら尚更嬉しかったと思う。

「だが、その弁当が理由で食中毒を起こして1週間入院した」

「えっでもそれは、作為が有ったわけでは…」

「有ったんだよ!」

「えっ!?」

「当時、彼奴はいくつも大きな案件を抱えていた。だが、彼奴が入院したことで、全ての仕事が当時ライバルと言われていた男の手柄になった」

でも…仕事がライバルへ移ることは間々ある事。

「彼奴が退院すると相手から別れを言い渡された。『親が反対してると…』孤児だと言うことが気に入らなかったらしい」

「そんなぁ…小野田さんが悪い訳じゃないじゃないですか!」

「ああ、彼奴が悪い訳じゃない。子供は親を選べないからな?だが、あちらさんは、どこの馬の骨かわからん奴には会社も可愛い娘もやりたく無かったんだそうだ」

どこの馬の骨って…小野田さんは小野田じゃない!

「別れてひとつき後、お嬢様は彼奴のライバルだった男と盛大な結婚式した」

ひとつきって…結婚準備がひとつきで出来るわけない。

「酷い!それって絶対二股ですよね!?」

「だろな?それ以来他人の作った物は食べられない」