愛してるからこそ手放す恋もある


まさかこのひとがねぇ…
茶髪にピアス、首にはクロスのネックレス、私にはチャラそうに見えて、とても仕事のできる人には見えない。
まぁどちらにしても私がやることは同じ。

「あの…食事は済ませられましたか?」

「いつの?」

いつの…?

菱野部長の言ってた事、あながち間違いでは無いようだ。

「お邪魔しても宜しいですか?」

持っていたものをこれ見よがしにみせる。

「ああ、菱野に任せると言ったしな?…どうぞ」と言って彼は部屋に入れてくれた。

彼について行くと、廊下突き当たりのドアの向こうはリビングになっていて、シックな家具が揃え置かれていた。ソファーには無造作に置かれた書類。

仕事してたのかな?

そしてテーブルには琥珀色の液体の入った瓶と氷の入ったグラスがダウンライトに照らされていた。

『カラン』と氷が、くずれ落ちる音がした。

「すぐお食事の用意しますね?」

「………」

「その前に何かおつまみ用意しましょうか?」

「いや結構!」

結構と言われても、なにも食べずに飲むのは体に良くない。
冷蔵庫を開けると中はとても充実しており、食品庫もあらゆる物が入っていた。
取り合えず、チーズとクラッカーをだし、食事の準備へと再びキッチンへ向かった。

亡くなった父から引き継がれた、兄の作ったビーフシチューは国内外からも称賛されらほど美味しい。ビーフシチューを温め、サラダだけで17品目摂れるビーンズサラダや、バケットをスライスしてダイニングテーブルに準備した。

「お口に合うと良いのですが?」

「あんたは食事食べたの?」

「いえ、まだです」

「じゃ、それ食べれば?」

一緒に食べよう!ってこと?

「あっ直ぐもう一人分用意します!」

「いや、俺は食べないから、あんたがそれ食べれば良い」

「え?小野田さんお食事まだなのでは?」

「俺は、信用して無い人間の用意するものは、いっさい口にしないことにしてる。仕事邪魔されたくないからな」

「え? それはどういう意味ですか?」

「どういう意味も何も君を信用してないってことだが?」

「え!?」

「君もそうだろ?会ったばかりの人間を信じろって方が無理がある。そうじゃないか?菱野は俺が会社を救ってくれると信じてるだろうが、あんたは違うだろ?」

「そんなことは…」

「そんなことはないと?それこそ嘘だね!それでも信じてるって言うなら、なにか裏があると俺は勘ぐる!」

私は自分を見透かされたようでなにも言えなかった。
だが、言われたままじゃいやだ!

「ええ、あなたの言う通り、私はあなたの事信じてません!なぜ菱野部長がそこまであなたをかってるのか正直わかりませんから!でも、会社を救いたいと思ってるのは確かです!」

「うん!君らしい!」

え?私らしい…

「あの…お会いしたの今日が初めてですよね?」

「いや、昨日君が営業部で正義感露にしてるとこ見てたよ!」

「えっ!?昨日あの場に居らしたんですか?!」

「剥げたオヤジを掌の上で転がしてるところ、なかなか面白かったよ?」

まさか見られていたとは…

「あっそうだ!お互いの事もっと知るために一緒に飲もうよ?」

小野田さんはそう言って私のグラスを用意してくれた。