ツゥーフロワー程、上がったところで息が切れ、あまりの体力の衰えを思い知らされる。

「まだ上がるのかい?」

後下から聞こえる声に振り向けば、そこには私が勤めていた会社の木村部長がいた。

なぜここに…?

私は構わず次への一段へと足を上げようとした。
だが、木村部長からは思いがけない言葉が投げられた。

「それ以上、上がっても、鍵が掛かってて屋上へは出れないよ?もし、命を絶つつもりなら他を当たりなさい」

え?

私は上へと上がりかけていた足を止めた。
命を絶とうとする私を止めるではなく、他を当たれと言う木村部長の言葉に涙が溢れる。

「君は、苦しみから逃げれば楽になるかも知れない。だが、残された者は苦しむんだよ?」

残された者…?

「私にはもう誰もいない。愛してた彼に裏切られ、もう、どうやって生きていけば良いか分からない!」

「それで今度は君が、君を愛してる家族を裏切るのかい?」

え?…
今度は私が…
裏切る…?

木村部長に言われて"はっ"とした。
私が命を経つと言うことは、母をそして兄達を悲しませ、裏切ることになる。

「ほら、降りておいで?」

「でも…私にはなにも残ってない…彼も…夢も…全て無くなったの!」

「じゃ、反対に君が残せば良い。残っていないなら、君が生きた証をみんなに残せば良いじゃないか?」

生きた証…
私が…生きた…証

「さぁ、私の手をとりなさい」

気が付けば差し伸ばされた部長の手を私は掴んでいた。

木村部長の手はとても大きく、ゴツゴツしていて、まるで亡くなった父の様な温かい手だった。

すると部長は「ありがとう」と言って微笑んでくれた。