佐伯梨華29歳。
5年前
私には結婚を約束した人がいた。

彼は辰巳誠、京都出身で老舗呉服店の長男。私達は同じ大学に通い同い年。共通の友人に紹介され付き合うことになった。そして、結婚の約束をした。

ゆくゆくは誠は京都へ帰り実家の家業を継ぐことになっている。勿論、私も結婚したら誠に着いていくつもりだった。

そんな私へ京都出身で友人の悠美から、京都の人は余所者には閉鎖的だと言われた。

それは身内に見せる顔と余所者に見せる顔があると言うことらしい。だから、結婚すると苦労すると言われた。

だが、そんな事は悠美の杞憂だった様で、彼の家族も「はよう、結婚しよし」と大学を卒業したら直ぐにでも結婚しなさいと言ってくれていた。

だが、私達の中では暫く社会勉強してから結婚しようと話していた。

そんな時私は病にかかった。

「梨華その咳長くないか?一度病院で検査してもらった方が良いぞ?」

「うん!仕事が落ち着いたら行く」

一ヶ月ぼど前風邪をひき、咳だけが長引いていた。

私達は社会に出て二年、仕事も覚えて一番楽しい時期だった。
市販の風邪薬を飲んで自分の体をだましだまし仕事をしていたのが良くなかった。

あまりの家族の心配する声や、病院に付き添うとまで言ってくれる彼に、私は相互病院へと向かった。

そして、肺に水が貯まってる為、入院して水を抜くと言われた。

その時の私は事の重大さに気付きもせず、仕事の心配ばかりをしていた。
どうせ二、三日で退院できるだろうと思い会社にも入院の事は知らせずにいた。

そして翌日、誠に付き添われ、入院した。
病室は大部屋の四人部屋、部屋は明るく、トイレと洗面所もあり、とてもきれいだった。
私のベットは窓際で、窓の下には私が通った高校が見えた。

「誠、見て見てあそこ私が行った高校だよ!」

「へぇーあそこで梨華も走り回ってたんか?」

「うん!」

窓の下に見えるテニスコートが懐かしい。