この世界に存在していない大切な人は記憶以上に心の奥深くまで刻まれてるってことを私は知っていた。
私にとっては母という存在がそうだったから。
決して忘れるなんてことはできない。
比較することすらできない。
未だに彼に影を落とすほどの影響力があっただろう彼女。
私がもう直接出会うことのないその彼女にどうしようもないほど嫉妬している自分がいた。
手帳を握り締めたまま呆然と立ちつくしていると、ソファーの彼が体勢を変えた。
「ま、こと?」
彼が眉間に皺を寄せながら薄目を開けて私の方に視線を上げる。
私は慌てて手帳をテーブルの上に置いた。
「ごめん、気付いたら寝ていた」
彼はゆっくりとソファーから起き上がり、そばにいる私の手をとって引き寄せた。
「どうしてだろう。疲れている時ほど真琴が欲しくなる」
私を正面で見つめたまま、低音の彼の声が響く。
そして優しく唇を塞がれたままソファーに押し倒された。
彼の唇が耳や首筋に落ちていく。
そのまま彼の腕の中で何もかも忘れたいと思ったけれど、私の意識は彼女の写真から離れない。
私の頬から体に降りていく彼の手を握りその動きを制した。
「ごめんなさい。今日は」
彼の目を見ずに言った。
「うん」
澤井さんはふぅと軽く息を吐くと前髪を掻き上げながら体を起こし、乱れた私のシャツを直してくれた。
こんなにも私を大切にしてくれているのに、会ったこともない彼女に嫉妬している自分が情けない。
いっそのこと彼女のことを澤井さんに聞いてみればいいのかもしれないけど、まだその勇気はなかった。
彼女の存在なんて知らなければこんなことで悩むこともなかったのに。
どうして忘れた頃にまた彼女の写真を見ることになったんだろう。
その意味を探しながら、でも結局はわからないまま日々を過ごしていた。
私にとっては母という存在がそうだったから。
決して忘れるなんてことはできない。
比較することすらできない。
未だに彼に影を落とすほどの影響力があっただろう彼女。
私がもう直接出会うことのないその彼女にどうしようもないほど嫉妬している自分がいた。
手帳を握り締めたまま呆然と立ちつくしていると、ソファーの彼が体勢を変えた。
「ま、こと?」
彼が眉間に皺を寄せながら薄目を開けて私の方に視線を上げる。
私は慌てて手帳をテーブルの上に置いた。
「ごめん、気付いたら寝ていた」
彼はゆっくりとソファーから起き上がり、そばにいる私の手をとって引き寄せた。
「どうしてだろう。疲れている時ほど真琴が欲しくなる」
私を正面で見つめたまま、低音の彼の声が響く。
そして優しく唇を塞がれたままソファーに押し倒された。
彼の唇が耳や首筋に落ちていく。
そのまま彼の腕の中で何もかも忘れたいと思ったけれど、私の意識は彼女の写真から離れない。
私の頬から体に降りていく彼の手を握りその動きを制した。
「ごめんなさい。今日は」
彼の目を見ずに言った。
「うん」
澤井さんはふぅと軽く息を吐くと前髪を掻き上げながら体を起こし、乱れた私のシャツを直してくれた。
こんなにも私を大切にしてくれているのに、会ったこともない彼女に嫉妬している自分が情けない。
いっそのこと彼女のことを澤井さんに聞いてみればいいのかもしれないけど、まだその勇気はなかった。
彼女の存在なんて知らなければこんなことで悩むこともなかったのに。
どうして忘れた頃にまた彼女の写真を見ることになったんだろう。
その意味を探しながら、でも結局はわからないまま日々を過ごしていた。