「今日の商談、すごくよかったよ。お疲れ様」

商談は無事成功。帰り道、逢沢さんに夕飯を食べにいかないか? と誘われた。

連れて来てもらったのは、見るからに高級そうなフレンチレストラン。窓の外に広がるのは地上三十階の夜景。

フロアの中央でピアニストが奏でる繊細な旋律をバックに、私はフルコースのディナーをごちそうになっていた。

「ありがとうございます……でも、こんな豪華なお食事――」

「気にしないで。言ったでしょう? 商談成立の前祝いに俺がごちそうするって」

「気が早いですよ。まだ正式に決まったわけじゃ……」

「十中八九決まったようなものだよ。君のプレゼンが完璧だったおかげだ」

逢沢さんが、シルバーフレームの眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めて、ワイングラスを持ち上げた。