え──────…

意識を取り戻した時、私に口付けていたのは凪君だった。

目を見開いて固まる私に、凪君はそっと唇を離す。


「あーあー、起きちゃった。ごめんね?待たせて」

「いや…大、丈夫」


何事もなかったかのようにニッコリと微笑む凪君は私の頭を撫でて鞄を手に取る。

未だに何が起こったのか、理解が出来なかった。

でも、キスをしたことより凪君のキスを夢で准一さんに例えていた自分がとても嫌だった。


「随分寝てたみたいだけど。あ、よだれ」

「嘘っ!」


慌てて口元拭い、羞恥で顔を赤らめる。


「うん、嘘」

「ひどい」


ぶっ、と噴き出して笑う凪君はとても楽しそうだった。

そんな笑顔…見せないで。

内心楽しそうな凪君を見ると胸が痛んだ。

自分を好きだと慕っていてくれた人が一度はちゃんと諦めてくれて友達に戻れたのに。

またこうやって伝わってくる“好き”という気持ちが私には重かった。

帰ろうと、手を出されて、私はおずおずとその手に自分の手を重ねる。

鞄を肩に掛けて夕日が差し込みオレンジ色の教室を出る。

ぎゅっと握られた手が…熱い。

凪君の熱が伝わってくるそれに私は俯いた。


「……そういうこと、ね」


廊下の影で、まさか…准一さんに見られていたなんて私は知る由もなかった。