あの店員さんの話は本当だったんだなぁ…
ふと、そんなことを思った。
「だから恋愛も執着しないままこの年まで流れるに乗って生きてきて…マキと出逢った」
「───え?」
急に自分の名前が出てきたのでピクリと体を揺らした。
俯いていた顔を上げると真っ直ぐに私を見つめた准一さんがいて…
その瞳に捕らわれるように、私は動けなくなった。
准一さんの左手が私の手に被さる。
「最初はただの生徒。迷子になったマキを見つけて笑ったよな。次に会った時は義妹になってた。ビックリしたよなぁ…」
「そうだ、ね…」
私だってあの時は今まで生きてきた中でナンバーワンと言っても過言ではないほど驚愕した記憶がある。
だって学園の理事長がいきなり義理のお兄さんになるんだって紹介されたんだもん。
「一緒に住むことなって、最初はイイ義兄を演じようとした。だけどマキが部屋に入ってきたことが引き金になって…気が変わった」
そうだよ、私だって最初は普通にいい人なのかなって。
理事長としてステージに立ち、迷子の私を助けてくれた准一さんしか知らなかったのだから。


