彼女をまた、苦しめる気か?


有栖川の決まりごとにしばりつけて?


「有栖川さん?」


それでも。


近づいてきた彼女を、腕の中に閉じこめる。


「えっ?」


「好きだ」


「……」


もう、何もいらない。


跡継ぎの地位も、会社での地位も。


君だけが……夏咲だけが、欲しい。


「愛してる。だから、自分のものにしたかった」


「……」


「お前が吊戯を頼るたびに、吊戯と名前で呼ぶ度に、手をとる度に、吊戯じゃなくても……他の男に笑いかける度に、嫉妬でどうにかなりそうだった。お前は俺のものじゃなかったし、俺もお前をしばりつけてしまいたくはなかったから……諦めるつもりだった」


嗚呼、ダメだ。


1度言い出すと、もう止まらない。


「でも、ムリだ。お前を諦めきれない」


好きなんだ。


もう、取り返しがつかないレベルで。


彼女をこの腕に抱いてから、1層、強まった想い。


「頼む……どこにも、誰の元にも、行かないで……勝手だと分かってる。それでも、それでも……」


彼女に縋る。


すると、そっと、ひんやりとした手が頬に触れた。


顔を持ち上げられ、真っ直ぐな彼女の瞳と視線が交わった。