「嫌よ。どうして私がヴォルブの国王なんかと結婚しなくちゃいけないの?」


当時十六歳だったうららプリンセスは、その縁談を嫌がった。


それもそのはず。

彼女の性格からして、強制された政略結婚なんて望む筈もなかったし、それにヴォルブ国王はかなりの歳……六十歳を超えていた。

そして何より、気性の荒い暴君だと有名だったのだ。


「だが、それはヴォルブの頼み……お前も知っているだろうが、これを断ってしまうとウルフの血族は何をするか分からんのだ」

「だからって……私には自由はないの?」


うららの言うことももっともで。

哀しみに満ちた瞳で見つめられた国王は大変に困った顔をしながら、ふぅっと溜息を吐いた。


「分かった。まぁ、真剣に話せば、ウルフもそれほど話の通じない連中ではないだろう」


ウルフの動きに一抹の不安を感じながらも、アルビンの国王は縁談を破棄することにした。


「お父さん……私、ワガママばかりでごめんなさい。国の置かれている状況が厳しいことも分かってるのに……」

「いや、いいんだ。こちらこそ、無理を言ってすまなかった。それに私も、ウルフなんかにお前を渡したくなかったんだ」


ヴォルブはパンターやアルビンを飲み込もうとするほどに強大な国力を持っていた。

だから、縁談を断るのはアルビン国王にとって相当な覚悟を要することだった。