黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス

レオパードは、ジョンとエマの住んでいた家の中を見回した。


「家には特に、荒らされた跡はないな」


家具や食器、ベッドなんかは特に動いた形跡もなく、あるのはどれだけ拭いても拭いきれずに残った床の血の汚れだけで。

でもそれはとても痛々しくて、私は身が千切れそうな想いがした。


「痛かった……だろうな」


昨日のあのお母さんの姿がまた脳裏によぎり、悲しくなった。

あの悲惨な光景が、ジョンとエマの苦しそうな顔が、私の胸を締め付ける。


しかし、その瞬間……
レオパードが突如、盾になるように私の前に立った。


「レオパード……?」

「しっ!」


彼は緊迫した声をひそめた。


「誰かいる」


(えっ……)


私はその、ぼんやりと電灯はついているものの、薄暗い部屋の中を見回した。

確かに……何かの気配がする。

それは人ではない。

獣の気配……それを、私の中にひそむ獣が微かに感じ取ったのだ。


そして徐々に……その気配が大きくなってきて、私の中でも具現化していった。


(これは……豹ではない。オオカミ?)


どうしてそんなことを思ったのか、分からない。

だけれども、私の中にひそむ獣はただひたすらに、今まさに直面しているそれは、強大な敵だということを主張していた。

そして、私の中の獣が目覚めてゆくにつれて、私の前に立つレオパードも赤い光を発し始めた。