黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス

「エマ。お母さんには……もう、会えないんだ」


ジョンは溢れ出る想いを堪えて、苦しそうにそう言った。


「えっ、どうして? だって、お母さんに食べてもらうために……」

「でも、もう、遠くへ行ってしまって。僕達には、そこへ行くことはできなくて……」


彼の目からは大粒の涙がポタポタと落ちた。


「ジョン……」


私の目にも、思わず涙が込み上げる。

こんなに幼いのに、彼はもう母が死んだということを理解していて。

ついさっきまで、妹にそのことを悟られまいと元気に振る舞っていて……

泣きじゃくり始めた彼を、私はぎゅっと抱きしめたくなった。


すると、私の代わりにエマが彼のことをぎゅっと抱きしめた。


「ジョンお兄ちゃん、大丈夫だよ。いい子にしてたらきっと……またいつか、戻って来るよ」

「エマ……」


抱きしめ合う幼い兄妹を私とレオパードは、何とも言えず切ない気持ちで見ていたのだった。



朝食が終わって、オルビは幼い兄妹を子供部屋へ案内した。

その部屋は兄妹が見たこともないほどの豪華なもので、昨日、レオパードが買い集めたという遊具やおもちゃも揃っていて。

だけれども、そんな部屋に入っても、ジョンとエマは何処か元気がなかった。


(やっぱり……ジョンとエマにとっては、お母さんは特別な存在なんだ)


母親のいない私だけれど、そんな二人を見ていると、胸を締め付けられる想いがした。