黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス

「分かりました! さ、うらら。手につかまって下さい」

え、うらら?

『プリンセス』じゃなく、『うらら』。

考えてみれば、このレオパードは私の夫というわけだから、下の名前で呼ばれるのも当然だけど。

私は何だか、照れてしまった。


「はい……」

そっと差し出すと、温かい彼の手が優しく包み込んでくれた。

そう……私の手を掴んだレオパードはジェントルに私を座席へエスコートしてくれて。

胸の中ではドックン、ドックンと心臓が暴れ出した。


「それでは、出発して下さい!」


レオパードが御者に指示をすると、フワリと宙に浮かぶ感覚を覚えて。

私達は空へ向かい飛び立った。


「わぁ……すごい!」


羽ばたくペガサスの翼は風を集めて。

一気にパンターの空へ舞い上がった。

頬を涼しい風が吹き抜けて、すぅっと空に吸い込まれそう。

飛行機にさえ乗ったことのない私には、それは初めての感覚で、でもとても心地よいもので。


「この国……パンターって、こんな国なんだ」


遥か上空から見下ろすその国は、青々とした森が広がっていて、でも所々には赤、青、黄……色とりどりのお花畑もあって、とても美しかった。


「この国は……私達にとって、宝なんです。だから、何がなんでも守らなければならない」


隣のレオパードが口にする、固くて強い決意。

それは、私の心にもすっと染み入った。


「えぇ……私も」


私の口から無意識に出た言葉に、レオパードは嬉しそうに微笑んだ。